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職場および通勤中の転倒災害を防止しましょう

皆さんは職場や通勤途中に転んだり、滑ってヒヤリとしたことはないでしょうか。作業場で水や油が床にこぼれていて滑ったり、オフィスで電源コードに引っかかったりすることもありますし、急いでいて駅の階段を踏み外した、雨の日に転んだ、、という経験をしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

転倒災害は、業務中や通勤中に転倒して負傷する災害のことです。転ぶだけだと危機感があまりないですが、重症になったり、最悪の場合死亡に至ることもあります。

転倒災害は、職場で上手に対策を講じれば、防ぐことが可能です。また、転倒しにくい靴を履くことも重要です。

この記事では転倒災害のリスクや靴の選び方など、転倒に関する情報を紹介していきます。職場を見直して、転倒防止に努めましょう。

転倒災害の発生状況 

「転倒災害」とは、業務中や通勤中に転倒して負傷したり、最悪の場合死亡したりする労働災害のことをいいます。転倒災害は年々増加傾向にあります。

転倒災害の割合

転倒災害発生件数

出典:厚生労働省「転倒防止リーフレット」001270393.pdf

「転倒」は、令和5年の事故の死傷災害で、全体の25%を占めて1位です。また、転倒して4日以上休む労働災害の件数は10年前の1.7倍となっています。以前に比べて、50歳以上を中心に、転倒による骨折等のケガを負う労働災害が増加しています。

転倒の割合

出典:厚生労働省「転倒防止リーフレット」001270393.pdf

50歳以上の転倒が増加しているのは、加齢に伴い身体機能が低下するため、転倒しやすくなるためです。特に、女性は骨粗鬆症で骨が弱くなるため、転倒による骨折リスクが高くなります。

重傷事故になる場合も

転倒は、場合によって重傷事故になることもあります。転倒によるケガの種類には以下のものがあります。

  • 骨折
  • 打撲
  • 眼球破裂
  • 捻挫
  • 脱臼
  • 靱帯損傷
  • 外傷性くも膜下出血
  • 外傷性気胸 など

この中で、骨折が一番多く63%、次に捻挫や脱臼が15%、打撲傷が15%となっています。ケガの程度に差がありますが、くも膜下出血のような大きなケガを負ってしまうと後遺症が残ったり、たった一度の転倒で寝たきりになってしまう場合もあります。

転倒災害による平均休業日数(労働者私傷病報告による休業見込日数)は47日です。転倒によって、長期休暇を要する事もあるので注意が必要です。

転倒災害は、移動中だけではなく、作業中にも起こる可能性があります。少子高齢社会により、労働力人口の高齢化が進む中で、職場での転倒防止対策が求められています。

転倒災害の要因とリスク

転倒災害が起こる要因と転倒時のリスクについて解説します。

転倒災害が起こる4つの要因

転倒災害が起こる要因は以下の4種類によって発生します。

内的要因外的要因社会・管理的要因障害増幅要因
・運動機能低下
・視覚機能の低下
・疾患
・服薬状況 など
・床面摩擦や凸凹
・段差
・照明
・手すり など
・整理整頓
・焦りや規則違反
・職場風土 など
・身体強度
・耐性
・回避能力
・骨強度 など

「内的要因」は自分の状況、「外的要因」は転倒の原因となる環境、「社会・管理的要因」は転倒の原因、「障害増幅要因」はケガを負う要因となっています。

転倒災害は、これらの要因が重複したときに発生しやすいといわれています。

転倒リスクをチェックしてみましょう

【内的要因・障害増幅要因】

  1. この1年間に転倒した
  2. 横断歩道を青信号の間に渡りきることができない
  3. 1Kmぐらいを続けて歩くことができない
  4. 片足で立ったまま靴下をはくことができない
  5. 水でぬれたタオルや雑巾をきつく絞ることができない
  6. この1年間に入院したことがある
  7. 立ちくらみがすることがある
  8. 今までに脳卒中を起こしたことがある
  9. 今までに糖尿病と言われたことがある
  10. 睡眠薬、降圧剤、精神安定剤を服用している
  11. 日常、サンダルやスリッパをよく使う
  12. 家の中でよくつまずいたり、すべったりする
  13. (新聞や人の顔など)目があまりよく見えない
  14. (会話など)耳があまりよく聞こえない
  15. 転倒に対する不安が大きい、あるいは転倒が怖くて外出を控えることがある

当てはまる項目に応じて以下のようなリスクがあります。当てはまった項目について、どんな転倒リスクがあるかを確認してみましょう。

項目番号転倒リスク
1~3歩行能力の低下
4バランス能力の低下
5筋力の低下
6~9 疾病による転倒リスク
10服薬による転倒リスク
11~12転倒の外的要因
13~14視力・聴力の低下
15転倒による不安と日常生活機能の制限

さらに詳しく身体機能を計測して転倒リスクをチェックしたい方は、厚生労働省:転倒等リスク評価セルフチェック票 で確認してみましょう。

【外的要因、社会・管理的要因】

職場で気になる箇所がないか、チェックしてみましょう。

  1. 通路、階段、出口に物を置いたままにしていませんか?
  2. 床の水たまりや氷、油、粉類等をその都度すぐにとりのぞいていますか? 
  3. 移動する通路や階段などできるように、十分な明るさ(照度)が確保されていますか?
  4. 作業靴は作業に適したちょうど良いサイズのものを選び、定期的に点検していますか?
  5. ヒヤリ・ハット情報を活用して転倒しやすい場所の危険マップを作成し、周知していますか?
  6. 段差のある箇所や滑りやすい場所に、注意を促す標識などで注意喚起をしていますか?
  7. ポケットに手を入れたまま歩いていませんか?
  8. ながらスマホや音楽をききながら歩くこと、手すりを持たない階段の昇降などを禁止していますか?
  9. 転倒を予防するための教育を行っていますか? 
  10. 転倒災害を予防するための運動やストレッチ体操を取り入れていますか?

上記で当てはまる場所は、改めて確認しておきましょう。問題のあるポイントが改善されれば、転倒予防だけでなく、作業効率も上がって働きやすい職場になるでしょう。

転倒の2大要因はつまづきと滑り

転倒する要因で特に多いのが、「つまづき」と「滑り」の2種類です。ほかに、「踏みはずし」や「他者との接触」「何かを避けようとしてバランスを崩した」などがあります。

「つまづき」と「滑り」それぞれの原因は以下の通りです。

つまづき滑り
・段差を超えるためにつま先を上げられなかった際に発生
・作業場
・通路に放置された物につまずいた
・作業場や通路のコードなどにひっかけた
・設備、什器、家具に足を引っかけた
・何もないところでつまずいた
・足がもつれた  など
・靴と床面間の摩擦が低下することにより発生
・すべりやすい床面、不適切な履物により発生頻度が増加
・作業場や通路にこぼれた水や洗剤、油等があり滑った
・雨で濡れた通路等で滑った
・凍結した通路等で滑った
・雨の日にマンホールや道路の排水用の格子状の蓋上を歩行して滑った など

職場でできる転倒防止策

職場でできる転倒防止策の方法は以下の3種類あります。

  • 作業環境を整える
  • 転倒しにくい作業方法を身につける
  • 個人で気を付けること

それぞれ詳しく紹介します。

作業環境を整える

転倒災害を防ぐためには、日頃から以下の4S活動に取り組むことが大切です。

  • 整理:SEIRI
  • 整頓:SEITON
  • 清掃:SEISO
  • 清潔:SEIKETSU

また、段差の解消や照度の改善をすることで、転倒の予防になります。

危険を「みえる化」して、危険情報を全員がわかりやすく共有することも大切です。

例えば、通路や床面で滑らないようにするには以下の方法で対策しましょう。

  • 滑り止めテープをつける
  • 滑り止め入り塗料を塗布
  • 凍結対策を行う(冬期)   など

転倒しにくい作業方法を身につける

転倒は通勤中だけでなく、作業中にも起こる可能性があります。転倒しにくい作業方法は以下の方法が考えられます。

  • 作業時間は余裕を持って設定・行動する
  • 滑りやすい場所では小さな歩幅で歩行する
  • 足元が見えにくい状態で作業しない

また、バランスや敏捷性などの身体能力を高める体操を定期的に実施しましょう。厚生労働省が発表している『転倒予防・腰痛予防の取組』のページの中に、職場で手軽に行える転倒予防の動画があります。こちらを朝礼やお昼休みのあと、15時など時間をきめてみんなで行うのも良いですね。

動画「転倒・腰痛予防!「いきいき健康体操」

解説書PDF:kaisetsu.pdf (yo2care.com)

個人で気を付けること

転倒予防は、職場の環境を整えるだけでなく、個人で以下のことを気をつける必要があります。

  • 時間に余裕をもって行動する(走らない、焦らない)
  • 天気情報をしっかりチェックして、通勤時の靴に注意する
  • 「〇〇ながら」は危険(スマホ、イヤホン、飲食など)

個人が気をつけることについても、朝礼や終礼などで、日ごろから注意喚起を行うようにしましょう。職場でルール化するのもおすすめです。

転倒しにくい靴を履く

転倒の予防は、靴選びが重要です。靴を選ぶときは、以下の5つに注意しましょう。

  • 靴底に凹凸があり滑りにくいもの
  • つま先部の高さがあるもの
  • 靴がやわらかいもの
  • 900g/足以下の軽量のもの
  • 靴の重量がつま先部に偏っていないもの

滑りや踏み外しの予防のために、靴は靴底に凹凸がある、滑りにくいものを選びましょう。しかし、滑りにくい靴を滑りにくい床で履くと、摩擦が強くなりすぎて逆につまづく場合があるため注意しましょう。

また、凹凸がなくなると滑りやすくなります。定期的にチェックして、凹凸がなくなってきたら、すぐに交換しましょう。
靴底のチェックをしやすくするために、作業靴の収納を靴底が見えるように設置する方法もあります。

つまずき予防のために、つま先の高さがある靴がおすすめです。足が上がらず、靴の先端部を凹凸に引っ掛けてしまいつまづく傾向があります。高齢者の方や疲れている方は、すり足歩行になりやすく、よりつまづきやすくなるでしょう。

KY(危険予知)活動

KY活動とは、事故や災害の危険を未然に防ぐために、事業者や従業員が協力して実施する活動です。現場内で危険が潜んでいる場所や作業を洗い出し、事前にリスクのを取り除きます。

業務を始める前に、「どんな危険が潜んでいるか」を職場で話し合いましょう。また、危ない点について対策を決め、設定された行動目標や指差し呼称項目を一人一人が実践して確認を徹底し、安全な業務遂行を目指します。

このようなKY活動は建設業や製造業など、さまざまな業界で取り入れられています。特に過去に災害事例がある場合は、KY(危険予知)活動を積極的にすすめましょう。

職場のハザードマップを作成

転倒災害を防止するために、職場のハザードマップの作成がおすすめです。以下の手順で作成してみましょう。

  1. 職場の平面図など(職場マップ)を用意する
  2. 職場内の危険な箇所や危険な作業を、なるべく多くの従業員で洗い出す
    ・過去に災害が発生した箇所
    ・ヒヤリ・ハット事例の多い箇所
    ・危険予知活動で注意が必要とされた箇所
    ・リスクアセスメントで作業場の注意が必要とされた箇所や作業 など
  3. 危険を回避するために、注意すべきこと、守るべきことをみんなで検討する
  4. 職場マップに危険箇所を明示し、危険マップを作成する
  5. 作成した危険マップを従業員が集まる場所に掲示し、周知する

あらかじめ危険な場所を可視化して周知することで、注意喚起となり転倒災害の防止につながります。

まとめ

転倒災害は最も多く発生しており、特に高齢化が進む労働環境において受傷するリスクが高まっています。

職場での転倒防止対策が重要であり、リスク因子の把握と日常的な改善が求められます。4S活動や危険情報の「みえる化」を通じて、全員で安全意識を共有し、定期的なチェックと対策のアップデートが必要です。

安全な職場を目指し、転倒災害の防止に努めましょう。

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