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働く女性の健康支援① ~月経トラブル~

女性がいきいきと働き続けるためには、女性特有の健康に配慮した企業の支援が必要不可欠です

近年、企業が健康経営を推進する中で、特に女性社員の健康支援が注目されています。
女性労働者が増加の一途をたどっていること、少子高齢化によって労働力人口の減少が見込まれる中、優秀な女性労働者を確保することは企業にとって大変重要な課題だからです。

弊社契約企業の多くが取得および維持を目指している健康経営銘柄・健康経営優良法人の認定要件にも「女性の健康保持・増進に向けた取り組み」という項目があり、国も健康経営の推進において、女性特有の健康課題への対策を重要視していることがわかります。

女性が多く働く職場においては、女性の健康課題が多岐にわたります。
月経トラブル、栄養不足によるやせ、女性が罹りやすいがん、更年期障害などが代表的なものです。

これらの健康問題はからだの問題だけでなく、メンタルヘルスにも大きな影響を及ぼすことがあります。何も対策しない状態では、生産性の低下や離職につながることもあります。
そのため、企業としては積極的に女性社員の健康を支援し、持続可能な働き方を実現するための取り組みが必要不可欠です。

女性は女性ホルモンの影響を大きく受けます

女性は小児期、思春期、性成熟期、更年期、老年期と進む中で、女性ホルモンの分泌量がダイナミックに変化をします。
女性はライフステージによって、かかりやすい病気が違うことがお判りいただけると思いますが、その多くは女性ホルモンの影響を大きく受けています。

その中でも、多くの女性が悩んでいる月経トラブル、女性のやせ、女性のがん、更年期障害について順に取り上げたいと思います。
今回は月経トラブルについてお話しします。

月経トラブルについて

7割以上の女性が月経前・月経中に何らかの症状をもっているという報告があります。(Tanaka E, Momoeda M, Osuga Y et al. Burden of menstrual symptoms in Japanese women: results from a survey-based study. Journal of Medical Economics 2013; Vol. 16, No. 11 :1255-1266)

月経随伴症状には月経前に起こるPMS(月経前症候群)とPMDD(月経前不快気分障害)、月経中に起こる月経困難症があります。

<月経前>

PMS:月経前症候群

  月経開始3日~10日前から始める精神的・身体的症状で、月経開始とともに減退・消失。

  約6.5%の日本人女性が社会生活に影響がある中等症以上との報告があり、治療対象になります。

PMDD:(月経前不快気分障害)

  症状が現れる時期はPMSと同じですが、PMSよりも精神症状が強く出現。

  月経がある女性の1.8~5.8%の女性が該当するとされます。

<月経中>

月経困難症

  月経中に起こる心身の不調が日常生活に影響するほど強く出る状態。

  下腹部痛・腰痛・疲労感といった身体の症状や、イライラ・抑うつなどの心の症状など多彩な症状が出現

月経前にこのような症状で困っていませんか?

〈身体の症状〉

  • 下腹部が張る、痛む
  • 乳房が痛む
  • 肌荒れ、ニキビに悩まされる
  • 頭痛、肩こりがある
  • めまいがする
  • 身体や顔がむくむ
  • 関節痛や筋肉痛がある
  • 体重増加

<心の症状>

  • イライラして、キレやすくなる
  • 不安や緊張感が高まる
  • 気力がなくなり、落ち込む
  • 食欲が異常にあるorまったくなくなる
  • いつもに比べて能率が低下する
  • よく眠れないorいつでも眠い
  • 気分が不安定になり、衝動的になる
  • わけもなく涙が出る

当てはまる方はもしかするとPMSやPMDDによるものかもしれません。
薬物療法やカウンセリング、生活指導で症状が軽くなる可能性があります。
日常生活に支障がある場合はぜひ婦人科を受診して医師に相談してみましょう。

どのような治療を行うのでしょうか?何科を受診すればいいですか?

薬物療法やカウンセリング、生活指導で症状が軽くなる可能性があります。患者さんの症状や悩み、生活スタイルなどをヒアリングしたうえで、適切な治療を行います。薬物療法としてはピルや鎮痛剤、漢方が用いられることが多いですが、むくみが強い場合には利尿剤や、精神症状に対してはメンタル系のお薬が使われる場合もあります。

月経困難症は子宮内膜症や子宮筋腫、子宮線筋症などの病気から起こることがあります。
精査も含めて、婦人科を受診がおすすめです。 ただし、PMDDのように精神症状が強く表れる場合は、さらに心療内科や精神科を紹介される場合もあります。

どれくらいの労働損失があるのでしょうか?

経済産業省によると、月経に伴う女性特有の月経随伴症状による労働損失は4,911億円と試算されています。
(参考:経済産業省ヘルスケア産業課 健康経営における女性の健康の取り組みについて
こちらに通院費用930億円、OTC医薬非費用987億円を合算して、月経随伴症状による1年間の社会経済的負担は6,828億円に上るとの試算もあり、とても大きな影響があることがわかります。

また、「女性特有の健康課題や女性に多く現れる症状により、勤務先で困った経験をしたことはありますか。」という質問に対して、女性従業員の約5割が女性特有の健康課題などにより職場で困った経験があると回答していますが、そのうちの多くが月経痛や月経前症候群によるものでした。しかし、7割以上の回答者(管理職・女性・男性共通設問)はそのことを知りませんでした。

つまり、実際には女性従業員は困っていて、大きな労働損失があるのだけれども、企業では認知度が低く(女性も含めて)、取り組みがすすんでいない状況が考えられます。

企業における女性の健康課題に対する取り組み例

ここからは、弊社が実際に企業と行った女性の健康支援への取り組みの一部をご紹介いたします。

・社員研修によるリテラシーの向上

最近特に希望が多いのが、女性の健康に関する研修や講話の依頼です。
女性特有の症状に対して男性はそもそも知識が足りない、あるいは女性でも症状の重さがそれぞれ違うので、社員研修の中で女性の健康について取り上げて、みんなが正しい知識を身につけることが大切です。
女性従業員も自分たちの健康に対する対処方法を知ることができますし、男性従業員や管理職も同僚や部下への接し方を知ることができます。
また、社員全員が同じ研修を受けて同じ知識をもっていることで、女性従業員から「男性上司にも以前より安心して体調の相談できるようになった」「生理休暇を申請しやすくなった」という声が多く聞かれます。

・女性の健康相談窓口の設置

相談窓口を設置して周知すると、女性従業員が心身の不調を早めに相談したり、管理職が部下の健康状態を見ながら対処方法を相談することができるようになります。専門の窓口を設置や、窓口の担当者が女性で、プライバシーにも十分に配慮することをしっかり従業員に周知すると、安心して相談がしやすくなるようです。

・産業医や産業保健職(保健師など)に安心して相談できる体制

もし相談内容が深刻な場合や、急いで専門家に相談した方がよい場合などは、すぐに産業医や産業保健職につなぐことができるように、あらかじめ社内で相談体制を整えておくと安心です。相談体制についても従業員の方に事前にアナウンスしておくと良いですね。
弊社の相談事例でも、重い生理痛と貧血で女性の健康窓口から産業医面談につながり、そこからいそいで大学病院婦人科を受診して婦人科疾患が早期発見・治療を行い、現在は完治して元気に働いている方がいらっしゃいます。医療機関に早くつながって本当によかった、と心から思いました。

・働きやすい環境作り

テレワークや休暇の整備、シフト改善等の制度を整備し、管理職や男性従業員も含めて実践することで、女性従業員がそれぞれの健康状態に合わせた柔軟な働き方ができるようになります。
休暇は名称によって申請しにくかったり、制度上不公平感が生じたり利用しにくかったりすることがありますので、「どうすればみんなが使いやすいか」という視点をもって設計することがポイントです。他社例を産業医にアドバイスを求めるのもよいと思います。

・婦人科検診を取り入れる

女性への健康支援への取り組みとして、婦人科検診を新たに取り入れた企業も複数あります。具体的には、年齢に関係なく乳がん・子宮頸がん検診を追加・費用補助をする、健康診断のときに一緒に婦人科検診を受けられるようにする、などです。検診のオプションの補助額を設定して、男性・女性が項目を自由に選べるようにすると、男性へ不公平感もなく好評でした。(余談ですが、男性だと前立腺や消化器系のオプションを選ばれる方が多いですね)

さいごに

女性が元気に働き続けるためには、女性特有の健康に配慮した企業の支援が必要不可欠です。
今回はその中でも特に、月経トラブルとその対応について取り上げました。今後も何回かに分けて女性の支援についてお伝えしていきたいと思っています。
もし「企業として女性支援をしたいけど、どのようにしていけばよいかわからない」という担当者の方がいらっしゃいましたら、産業保健の立場からお手伝いさせていただきますので、お気軽にご相談いただけると幸いです。

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