寒くなると、インフルエンザなどの感染症にかかってしまう人は多いのではないでしょうか。
冬はかぜや胃腸炎、インフルエンザなどの感染症にかかる人が増加します。冬は空気が乾燥し、気温も下がることが原因のひとつと考えられています。この時期は、個人が体調管理を心がけるとともに、職場での感染拡大を防ぐために感染対策を行うことが重要です。
この記事では、冬に流行しやすい感染症の特徴と、それに対する基本的な対策を紹介していきます。職場で取り組む予防策についてくわしく解説するので、改めて職場の感染対策について見直しましょう。
目次
冬に感染症が流行する理由
冬に感染症が流行しやすい理由は、主に以下の2つが挙げられます
- 空気が乾燥していて、気温が低い
- 免疫力の低下
それぞれくわしく解説していきます。
空気が乾燥していて、気温が低い
冬は夏に比べて気温が低く空気が乾燥しがちなため、低温・低湿を好むウイルスには最適な環境です。乾燥した空気中では、ウイルスの水分が蒸発し、軽くなって空中に浮遊して伝播しやすくなります。
また、寒くなると水分の摂取が少なくなるため、乾燥によって鼻や喉の粘膜が乾き、感染に対する防御が弱まることも原因のひとつです。さらに、寒さのため窓を開ける回数が減り、室内の換気が不十分になることも感染拡大につながるでしょう。
免疫力の低下
寒い冬は身体がどうしても冷えがちです。冷え性の方は特に冬はつらいのではないでしょうか。体温が1℃下がると免疫力が約30%低下すると言われています。
また、冬は年末の忙しい時期でもあり、仕事に加え年越しの準備によるストレスが大きくなります。寒さやストレスにより免疫力が弱まることで、感染症にかかりやすくなる可能性があります。
冬は感染症にかかりやすい時期のため、しっかり対策をして健康を守りましょう。
冬に流行しやすい感染症とその特徴
冬に流行しやすい感染症には以下のものがあります。
- インフルエンザ
- マイコプラズマ
- 新型コロナウイルス感染症
- 感染性胃腸炎
- 溶連菌感染症
これらの感染症にかからないように、感染経路や予防方法を理解し、感染を防ぐことが大切です。それぞれくわしく解説していきます。
1. インフルエンザ
インフルエンザはインフルエンザウイルスによる呼吸器感染症で、毎年約1,000万人(約10人に1人)と、多くの人が感染します。
症状は以下のもので、全身の症状が強いことが特徴です。
- 38℃以上の高熱
- 頭痛や関節痛
- 筋肉痛
- 全身のだるさ
飛沫と接触により感染するため、流行時にはマスクや手洗いを徹底し、人込みを避けることが推奨されます。
気管支炎や肺炎を併発して重症化することもあり、年によって異なりますが、死亡者が毎年2〜3,000人にのぼります。とくに高齢者や妊婦、持病を持つ方は重症化リスクが高いため、流行前に予防接種を検討するのも一つの方法です。2024年度から、2〜18歳未満を対象に「フルミスト」という鼻に直接噴霧するタイプのインフルエンザ生ワクチンが実用化されています。対象年齢は限られていますが、注射が苦手なお子様には良いかもしれません。
流行時はマスクや手洗いなど標準的な感染予防対策を行い、特に重症化リスクの高い方は人混みや繁華街への外出は控えるようにしましょう。
企業は出勤の可否について法的な基準はありませんが、社内での感染拡大を防ぐには、あらかじめ会社全体でルールを決めて周知することが大切です。
2. マイコプラズマ肺炎
肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)という細菌に感染することで起こる呼吸器感染症です。
小児や若年層の肺炎の原因として多く、成人にも見られます。発熱や全身のだるさ、長引く咳が特徴です。年中みられますが、秋冬に増加する傾向があります。
飛沫と接触により感染し、2〜3週間の長い潜伏期間があります。特に閉鎖的な空間(閉鎖施設内や家庭内)で感染伝播がみられ、感染者との濃厚接触により感染することが多いと考えられています。手洗いやうがいといった基本的な感染対策をしっかり行い、感染した場合は家族間でもタオルの共有は避けましょう。
「乾いた強い咳がおよそ1週間以上続く」「38~40度の高熱が3日以上続く」「かぜ薬や処方された薬をのんでも治らない」場合は早めに医療機関を受診しましょう。特にぐったりしている場合や、呼吸が荒い場合は注意が必要です。主な治療は主にマクロライド系の抗菌薬です。
マイコプラズマ肺炎の予防にはマスクや手洗い、アルコールによる手指衛生を徹底することが有効です。
3. 新型コロナウイルス感染症
2023年5月に5類感染症に分類変更された新型コロナウイルスは、明確な流行時期は特定されていませんが、過去には冬場に流行が拡大した時期もありました。症状がある場合はマスクの着用や人込みを避ける、医療機関や高齢者施設を訪問する際や満員電車ではマスクをするなど周囲への配慮の配慮をすることが望ましいです。
また、2024年10月から65歳以上や基礎疾患を持つ方を対象にワクチンの定期接種を実施しています(詳細はお住まいの自治体に要問合せ)。
4. 感染性胃腸炎(ウイルス性胃腸炎を中心に)
感染性胃腸炎は、以下のウイルスなどが原因で、腹痛や下痢、嘔吐、発熱などの症状が現れます。冬になるとノロウイルスによる食中毒や感染症が増加し、大規模な食中毒が発生することもあります。
- ノロウイルス
- ロタウイルス
- サポウイルス
- アデノウイルス
引用:東京都多摩立川保健所
とくにノロウイルスの感染力は非常に強く、感染後24〜48時間で下痢・吐き気・おう吐・腹痛・発熱などの症状があらわれます。ノロウイルスはアルコール消毒が無効なため、塩素系消毒液を使用することが必要です。
通常は3日以内に回復しますが、ウイルスは症状回復後も1週間~1カ月程度、糞便中に排泄される場合があります。治療は主に対症療法で、しっかりと水分を補給し、休養を取ることが大切です。また、症状が悪化する可能性があるため、自己判断で下痢止めは使用しないこようにしましょう。
予防には丁寧な手洗いを心がけ、食品や調理器具の十分な加熱と、食材の適切な保管が大切です。オフィスではドアノブやスイッチなどの接触部分をこまめに塩素消毒しましょう。
5. 溶連菌感染症
一般的には溶連菌のうち「A群β溶血性連鎖球菌」による感染症を指し、冬から春にかけて小児に多くみられる感染症です。免疫力が低下している大人も発症することがあります。
症状は以下のものがあり、主な感染経路は飛沫感染と接触感染です。
- のどの痛み(咳はあまりでません)
- 38~39℃の高熱
- 首のリンパの腫れ(押すと痛いです)
- 頭痛・腹痛
- イチゴ舌、かゆみを伴う発疹、顔や手が赤く腫れる(3歳以上のお子さんの場合)
治療は抗生剤の内服で、溶連菌の感染力は服用後24時間ほどでほとんどなくなりますが、合併症を予防するために10日~2週間程度は継続して抗生物質を服用する必要があります。溶連菌感染症と診断されたら、医療機関受診日と翌日は通学・出勤を控えましょう。
予防は手洗い、うがいなどの標準的な感染予防対策を行い、患者との濃厚接触を避けることが重要です。
感染対策の基礎知識
厚生労働省:感染症の基礎知識(000501120.pdf)
感染症の原則として、感染成立の3要因の対策と、病原体を「持ち込まない」「持ち出さない」「広げない」ことが重要です。
感染症が成立するためには、①病原体、②感染経路、③宿主の3つの要素が揃う必要があります。このうち、とくに②の感染経路を遮断することが感染拡大防止に重要です。
感染経路について
ウイルスや細菌はさまざまな経路から、身体に侵入することが感染を起こす原因です。さまざまな感染経路がありますが、その中の3種類をくわしく紹介します。
接触感染 | 飛沫感染 | 空気感染 |
・皮膚や粘膜の直接的な接触 ・汚染された物体や食品を介して間接的な接触 ・咽頭結膜熱、インフルエンザなど | ・咳やくしゃみを吸い込んで感染する(しぶきは最大2メートル飛ぶといわれている) ・百日咳、風疹、インフルエンザ、おたふくかぜなど | ・ウイルスや細菌が空気中に飛び出し、1m以上超えて感染する ・麻疹、水痘(みずぼうそう)、結核など |
このほかにも媒介動物感染や血液感染、母子感染があります。
日頃から手洗いうがいをして、咳やくしゃみが出る人はマスクをつけるようにして感染予防に努めましょう。
職場でできる感染予防方法
職場でできる基本的な感染対策は以下の4種類あります。
- 手指衛生
- マスク、手袋、エプロンなど個人防護具を使用
- 清潔で衛生的な環境管理
- 呼吸器衛生/咳エチケット
1.手洗いと手指消毒
正しい手洗いは感染予防の基本です。石鹸を使い、指先や爪の間なども念入りに洗います。手指消毒剤を使う場合は、適量を手に取り、しっかりと乾燥するまで擦り込むことが大切です。
【洗い残しやすい部分】
参考資料
公益社団法人日本食品衛生協会
衛生的な手洗いについて
【衛生的な手洗い】
正しい衛生的な手洗いや手指消毒をして、感染拡大を防ぎましょう。
2.個人防護具の使用
マスク、手袋、エプロンなどの個人防護具を適切に使用することで、感染リスクを下げることができます。とくに、感染者に近づく場合や、頻繁に触れる場所を消毒する際には防護具の使用が推奨されます。
【排泄物・嘔吐物の処理手順】
3.環境管理
定期的な換気や清掃も感染対策の一環です。オフィスやトイレ、食堂といった共用スペースはとくに注意しましょう。消毒にはアルコールや次亜塩素酸ナトリウムが有効です。
【環境清拭の方法】
【0.05%以上の次亜塩素酸ナトリウム液(消毒液)の作り方】
引用:厚生労働省
清拭は、よく触れる場所(スイッチやドアノブなど)は、定期的に消毒用エタノールや次亜塩素酸ナトリウムで拭き掃除をおこないましょう。拭き方は「上から下」「右から左」など一方向に拭くと効果的です。
職場で取り組む感染予防
職場では、感染リスクを下げるために以下のような対策を実施することが効果的です。企業によって、導入しやすさや優先順位は異なるため、社内で話し合い、効果的で実行しやすい対策から取り入れていきましょう。
感染者との接触を減らす
職場では、働き方を変えて感染者との接触を減らす方法があります。
- テレワーク
- オンライン会議
- 時差出勤を導入
従業員が密になりやすい状況はできるだけ避けましょう。また、体調不良の際に休みやすい職場環境を整えることも、感染拡大を防ぐために重要です。
定期的な換気と消毒で環境整備
職場環境を整備して、感染拡大を防止しましょう。
- 職員間の距離確保
- 定期的な換気や消毒
- 仕切りの利用
- レイアウト変更
- トイレや食堂など共有スペースの定期的な消毒
- ワクチン休暇の設定
こまめな消毒以外にも、仕切りやレイアウトを変えて、職員の距離感を保てる環境を作ることも効果的です。
常備品の準備
体温計やマスク、手指消毒剤などを常備し、必要に応じて使用できるようにしておきます。さらに、嘔吐物処理セットや消毒液も備えておくことで、万が一感染者が発生した際に迅速に対応できます。
【社内で常備したいもの】
- 体温計(非接触型体温計)
- マスク(不織布製マスク)
- 手袋(使い捨て)
- ゴーグル・フェイスシールド
- エプロン・ガウン(使い捨て)
- キャップ
- 次亜塩素酸ナトリウム液
- 消毒用アルコール
- ペーパータオル
- せっけん液
- 手指消毒剤
- ごみ袋
- 加湿器
- 嘔吐物処理セット
常備品は、普段から多めにストックしておきましょう。場所の確保が難しい場合は、常備品を大量に溜めておくよりも、使用した分だけ買い足す、ローリングストックがおすすめです。
職場だけでなく、家庭内で感染を防ぐことも重要です。家庭の場合は食料品や飲み物、検査キットもあわせて準備しておくと安心です。
感染者が発生した際の対応
感染者が発生した場合には、以下の流れで対応することが望ましいです。
1. 感染状況の確認:プライバシーに十分配慮しながら、感染者の症状や行動履歴を確認し、発生状況を確認・把握します。
2. 感染拡大の防止:職員への注意喚起や感染対策の強化をおこないます。また、疾患によっては保健所などの専門機関と連携をおこなう必要があるため、必要に応じて保健所への連絡をしましょう。
3. 感染防止マニュアルの整備:社内で対応マニュアルを整備し、迅速に対応できるよう備えておくことが重要です。マニュアルは定期的に職員に周知しておきましょう。感染の発生を想定した予行練習が重要です。
マニュアルは必要ですが、日頃から従業員の体調確認・体調管理をおこなうことも大切です。
まとめ
冬は感染症が流行しやすい時期であり、職場でも感染拡大を防ぐための対策が必要です。感染予防には、手洗いやマスクの着用、職場の環境管理が欠かせません。
職場で感染者が発生した場合には、対応マニュアルに基づいて速やかに対処することが求められます。感染症対策を日頃から意識し、健康で安全な職場環境を保つことが、冬場の感染症予防の鍵となるでしょう。
また、職場によって有効な感染防止対策は異なります。定期的にチェックしながら、アップデートすることが重要です。職場での感染症の拡大を防止して、健康な職場を目指しましょう。